産業雇用安定助成金|受給対象者や金額などをわかりやすく解説します
雇用維持に努力する経営者に朗報!人手が足りない会社にもメリットが大きい「産業雇用安定助成金」とは?
2021年現在、新型コロナウイルス感染症は特定の業種や業界に深刻な影響を与えています。
厳しい経営環境が続くなか、雇用維持に努力する経営者を支援するために、新たに創設された助成金が「産業雇用安定助成金」です。
昨年末、当助成金のニュースリリースが発表された時点の情報をこちらの記事でまとめましたが、本記事では、2021年2月5日から施行された当助成金の概要をわかりやすく解説します。
この記事の目次
産業雇用安定助成金の助成対象(要件)とは
産業雇用安定助成金は、新型コロナウイルス感染症によって売上や生産量が落ち込み、雇用調整に踏み切らざるを得なくなった事業主の支援が目的です。
そのため、売上の回復が見込めない状況下で事業の縮小を迫られる事業主に対し、在籍型出向(※)によって雇用を守る仕組みを提供するのが、当助成金の枠組みとなっています。
仕事の減った会社から人手が足りない会社への「出向」を、雇用調整の手段として活用するものなので、1件の助成金申請に対して、2つ(以上)の会社が関係することになります。
従業員を送り出す側の「出向元事業所」と、従業員を迎える側の「出向先事業所」のそれぞれに助成金が支払われるため、助成対象としての要件が出向元・出向先のそれぞれに設けられています。
(※)在籍型出向とは、出向元と出向先における「出向契約」によって、労働者が出向元・出向先の企業の双方と雇用契約を結ぶこと。従来の「労働者派遣契約」よりも労働者の雇用機会が確保されている点に違いがあり、労働者派遣には該当しない。
出向元事業主の生産性要件
出向元事業主に対しては、新型コロナウイルス感染症の影響により、生産性指標(売上や生産量)が一定量以上減少していることが要件のひとつです。
- 【出向元事業所の生産性要件】
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- 最近1カ月の生産性指標が前年同月比で5%以上減少していること
出向先事業所の雇用量要件
出向先事業所に対しては、従業員の解雇等をしていないこと、雇用量の減少がないことが要件として、以下のように定められています。
- 【出向先事業所の雇用量要件】
-
- 出向開始日の前日から起算して6カ月前から、助成対象期間の末日までの間に、
事業主都合による解雇を行っていないこと
- 出向開始日の前日から起算して6カ月前から、助成対象期間の末日までの間に、
さらに、雇用指標の最近3カ月間の月平均値が前年同期に比べて、以下の要件を満たす必要があります。
- 大企業の場合:5%超、かつ、6人以上の減少がないこと
- 中小企業の場合:10%超、かつ、4人以上の減少がないこと
出向元・出向先の「独立性」と「出向の目的」
出向先がじつは出向元の子会社であるなど、出向元・出向先の間に関係性が認められる場合は、助成対象外です。以下のように要件が定められています。
- 出向先・出向元事業主の独立性に関する要件
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- 出向元と出向先に親会社・子会社の関係性(資本金の50%超の保有)がないこと
- 出向元・出向先の代表取締役が同一人物ではないこと
- 一方の取締役が他方の取締役の過半数を兼務していないこと
また、コロナ禍による事業縮小の雇用調整が目的であることから、出向の目的が「人事交流」「経営戦略」「業務提携」「実習」など、雇用調整を目的としない場合は助成対象外です。
その他の要件
出向元の生産性要件、出向先の雇用量要件、双方の独立性に関する要件以外にも、以下のような要件が定められています。
- 出向元・出向先ともに、雇用保険適用事業所であること
- 書面による労使間協定を結ぶこと
- 出向対象労働者が出向に同意していること
- 出向対象労働者は出向元の従業員としての地位は変わらず、出向対象期間終了後は出向元に戻って働くこと
- 出向元が本助成金や、雇用調整助成金等の「出向先事業所」となっていないこと
- 出向先が本助成金や、雇用調整助成金等の「出向元事業所」となっていないこと
- 受給に必要な書類の整備と保管を適切に行うこと
- 労働局等の実地調査を受け入れること
産業雇用安定助成金の助成対象となる経費について
出向対象労働者に支払われる賃金と関連経費、また出向労働者のための設備や教育訓練に要する費用が助成対象です。
経費は2種類に分けられ、賃金支払いに付随する「出向運営経費」と、出向の送り出し・受け入れの準備に伴う「出向初期経費」として定められています。
出向運営経費
賃金支払いに付随する「出向運営経費」は、以下のとおりです。
- 出向元または出向先が支払う賃金(社会保険料を除く)
- 出向労働者の労務管理や人事評価に要する経費
- 出向先事業主が負担した出向先事業所における教育訓練(Off-Jt)に要する経費
出向運営経費の助成率は、以下のとおりです。
出向初期経費
出向の送り出し・受け入れの準備に伴う「出向初期経費」は、出向期間の初日までに、出向労働者の受け入れや事務関連の作業に要した費用が助成されます。
- 出向労働者のための什器やOA機器、被服費等の初期経費
- 職場見学、業務説明会等に要する経費
- 出向労働者の労働条件、スケジュール調整に要する経費
- 出向元・出向先の就業規則等の整備・改正に要する経費
- 出向元・出向先の出向契約書の作成・締結に要する経費
- 出向元・出向先事業所での教育訓練に要する経費
- 出向労働者の転居に要する経費(事業主が負担する場合に限る)
- 上記の他、出向に必要と認められる経費
出向初期経費の助成額は、以下のとおりです。
また、出向元・出向先事業主が以下の要件に当てはまる場合は、出向初期経費の上乗せ(要件により10万円~15万円)の対象となります。
- 【上乗せの対象となる要件】
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- 出向元事業主が以下の業種に該当する場合
- 出向先事業所の業種が出向元事業所の業種分類と異なる場合
- 出向元事業所の最近3カ月間の月平均の生産性指標(売上・生産量等)が、
前年同期比で20%以上減少している場合
・運輸業、郵便業
・宿泊業、飲食サービス業
・生活関連サービス業、娯楽業
教育訓練(Off-Jt)に関する経費
出向によって行われる「教育訓練 Off-Jt」に関する経費については、以下のように要件が定められています。
- 教育訓練(Off-Jt)に関する経費の要件
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- 海外で実施されるものは対象外
- 通信教育、eラーニングは対象外
- Off-Jtが対象であり、OJTは対象外
- 趣味・教養と区別のつかないものは対象外
- 指導員・講師が直接指導を行うものであり、ビデオ視聴のみといった形式は対象外
- 接遇・マナー講習、パワハラ・セクハラ研修等、職業人として共通して必要なものは対象外
- 通常生産活動と区別がつかないものなど、訓練の実施により利益を生ずるものでないこと
- 出向先が出向先事業所で実施する集合形式の訓練であること
- 公共職業安定所、教育機関等、その他事業主団体等が主催する訓練であること
- 出向先事業所の職務遂行のための技能や、ビジネススキル習得に関わるものであること
- 専修学校専門課程教員、職業訓練指導員免許取得者、または、これと同等以上の能力を有する者の指導であること
産業雇用安定助成金の出向対象期間
出向運営経費の対象となる出向期間は、1カ月以上2年以内です。
出向の開始日の最も早い日から出向終了の最も遅い日までが、2年以内になります。
また、出向元から複数の出向先に対して、それぞれ異なる期間で出向させる場合も、出向開始の最も早い日から、出向終了の最も遅い日までが対象期間となります。
「出向対象期間」と「出向する従業員数」については、以下の上限が設けられています。
- 出向対象期間と出向する従業員数の上限
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- 同一の従業員に対する支給限度日数は365日(12カ月)が上限
- 支給対象となる従業員(雇用保険被保険者)の数は500人が上限
なお、従業員数が500人に満たない場合はその人数分が支給対象となり、従業員数が10人に満たない場合は10人分が支給対象上限となります。
また、当助成金の施行日(2021年2月5日)以前から開始している出向についても、助成対象となります。
この場合、2021年1月1日以降に出向を開始している場合は、出向開始日以降の出向運営経費と、2021年1月1日以降の出向初期経費が助成対象です。
一方で、出向が2021年1月1日以前から開始されていたものについては、2021年1月1日以降の出向運営経費のみが助成対象となります。
ここまでの解説のさらに詳しい内容は、「産業雇用安定助成金ガイドブック」もしくは、「産業雇用安定助成金 要領」をご参照ください。
まとめ
コロナ禍により厳しい経営環境から抜け出せない一部の業種では、事業の存続が危ぶまれるケースも増えてきています。
そんな中で、在籍型出向をキーワードに、雇用を守ることを目的とした当助成金は、苦境に立たされた経営者にとって活用しがいのある制度となっています。
従来の「雇用調整助成金」にはなかった出向先へのインセンティブと、定額で支給される出向初期経費の助成は、金額的にも異例と言えるものです。
産業雇用安定助成金の申請受付は、2021年2月5日から開始されています。雇用を守りたい経営者の方は当助成金の活用をぜひご検討ください。
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(編集:創業手帳編集部)